その瞬間、頭の中では、ちあきなおみの「喝采」が鳴り響いていた。
気が付けば、俺たちは、踊りきっていたようだ。
こんなにも我を忘れて夢中になれたのは、いったい、いつ依頼のことだろう?
鳴り止まない大歓声、笑顔の輪、腹がよじれてきしむ音、そして「喝采」・・・。
ちあきと聞いて、思わずモノマネ四天王のコロッケの顔を思い出して、最後にまた一つ、ポロリと笑みがこぼれ落ちた。
これほどまでに素敵な気持ちになれたのも、あの突然のオファーがあったからなんだよな・・・。
3月某日。
俺は、会社の後輩Kから、突然の呼び出しを受けた。
場所は、第一応接室。本来ならば来客専用の個室にもかかわらず、彼は大胆にも俺を招き入れた。
10分程度、最近の安倍内閣の動向、沖縄基地問題、橋本環奈さんの魅力について、ひと通り語り合ったあと、男から結婚の報告を受けることになる。
昭和最後の良心とも言われた後輩K。ついに彼が身を固めると聞いて、俺は心底嬉しかった。いやいや、めでたい。祝言の日取りも聞き、俺もスマホのカレンダーに予定を書き込もうとしたが、何だかツルツル滑るのである。どうやら嬉し涙で液晶画面が濡れてしまっていたようだ。
「やれやれ。携帯画面クリーナーで拭かないと入力できないじゃないか!」と一人事を言いながら画面をフキフキしていると、彼は、突然俺にこうつぶやいた。
「余興、やってもらえないっすか?」
えぇぇ~~~、急に何ですって!!!
俺は5秒程度、固まってしまった。もちろん、顔面の話である。
その5秒の間に行われた、俺の頭の中の天使と悪魔のやり取りは次の通り。
悪魔:「結婚式にお呼ばれするのも久しぶりだし、余興となると、もう10年くらいやってないだろ。受けないほうがいいぜ?」
天使:「いやいや。Kと俺たちは、いつも一緒だったじゃないか。人肌脱ぐのが人情ってもんだろう?」
悪魔:「じゃあ、今のお前に何ができるというのだ? その出まくったお腹で何ができるんじゃ、ボケ!」
天使:「腹は関係ないだろう。こんな素敵な誘いに、背に腹は変えられないだろう。なんちって・・・」
悪魔:「バランスボールに毎日乗っているのに、なぜ腹がボールみたいになるんだよ?」
天使:「おっしゃるとおり。バランスボールでは、痩せませんわ(断言)!・・・あれ、何の話だっけ?」
20代の頃は、オファーが無くても勝手に余興をやっていたものだが、俺も大人の階段を結構登りまくって、40過ぎである。
とまあ、いろいろ考えても沈黙が続くばかりだし、何か言わないといけない。
とりあえず、口から出た一言。
「え?」
おっと、まずい。こんなにも短い疑問形では後輩を傷つけかねない。
二言目には、とりあえず、肯定してみることにした。
「できる範囲でやらせてもらうよ(汗)。。。」
思わず、オッケーサインを出してしまった。天使が悪魔に勝利した瞬間でもあった。
しかし、これは困った。完全にノープランである。
仕方がない。いったん、家に帰って、風呂につかりながら考えてみることにした。
さてさて、どんな余興をやればいいのか?
今までやってきた余興といえば、楽器演奏系、歌系、新郎新婦いじる系などであるが、今までの路線で進めるのも味気ないし。
今の自分は、いったい何がやりたいのだろうか?
ただやればいいというわけではなく、夫婦(めおと)の喝采を得ないといけないわけで・・・。
そうだ! ダンスがしたい!! 俺は踊りたいんだ!ということにふと気が付いた。
「3代目J Soul Brothers」や「E Girls」など、巷(ちまた)では踊りが上手な方々が人気である。俺も踊りで人気者になりたいぜ。まったくの下地はないが、根拠のない自信だけは持ち合わせていた。
踊ることは決まった。次にどんな曲で踊るか?
ちまたではAKDなるグループが人気だが・・・おやおや、AKDは西武ライオンズの最強クリンナップであったな(秋山・清原・デストラーデ)。
AKBの歌というのも、流行にすがっているようで、はしたない。ここはあえてモー娘というのはどうか!? ヤグッちゃんも復活したわけだし。
さらに、女装でモー娘というのもありがちだ。ここは、日本人がもっとも得意とする「A+Bを融合する」という手法を選択して、『長州小力でモー娘を踊る』 という案がここに完成!!
突然の長州の登場の理由は、ただ単に個人的に長州をやってみたかったという欲望から・・・。
今年の大河ドラマも長州がテーマ。まさに「え~じゃないか、え~じゃないかぁ♪」と歌って踊ってしまいそうである。ダンディの「ゲッツ!」のように、古い笑いを今やることで、かえって新しい笑いを産む(かもしれない)、というのが私の持論だ。
よし! ネタは、決まった! これで盛り上がること間違いなし!?
次にやるべきことは、長州小力に似せるため(そもそも小力が偽者なので、不思議な響きだが)、どういった衣装を準備すればいいのだろうか?
俺は、早速、Amazonにて「プロレス用ショートタイツ」と「ロングヘアーかつら」を購入!
2~3日後に自宅に届いたので、電光石火の超特急の速さで試着してみた。
すると息子達からは、「キモイ、キモイ、キモウィ~!」の大合唱が!!
まあ、キモイの意味をよく理解していない息子らには、「キモイ=気持ちいい」ということと、沖田浩之さんの名曲『E気持ち』のサビの部分をレクチャーしておいたことは言うまでもない。
ロン毛にすると、女心になってしまったようで、後ろ髪を縛ってみた。
はい! ベニマルでよく見たことがあるような「おばちゃん」の出来上がり。
オッケー、オッケー! いい感じで長州を再現できそうだということがわかったので、残りのモー娘のメンバーになるであろう5人分のカツラとプロレス・パンツを追加注文したのであった。
次にモーニング娘。のどの曲をチョイスすべきか?
一番のヒット曲は、『LOVEマシーン』。その他にも『ザ☆ピ~ス!』、『ハッピーサマーウェディング』など多くのヒット曲があるが、俺が大好きな曲『恋愛レボリューション21』に決めた。踊りもフューチャーされているし。
次のミッションは、チーム作りである。
というわけで、踊りの似合う招待者に、1人1人と声をかけていった。
5人を誘ったが、全員、二つ返事でオッケーをいただけた。
もう、嬉しい悲鳴である。後輩K、いったいどれだけ皆に愛されているというのか。
みな集まっての練習は、4月24日に決定。
初日は、おっさん達がロン毛のかつらをかぶりあって終了。久しぶりに相当、笑った。
2回目の練習は、5月11日。本気でモー娘と同じ振り付けで踊ってみる。これは難しい。あと10日程度でうまく仕上げられるのだろうか?
練習3日目の5/18。難しいパートは、長州小力のダンスを取り入れることで難易度ダウン。
さすが歴戦のツワモノのメンバーたち。「こういう振りはどうだろう?」、「こうしたほうが面白いと思う」などと次から次にアイディアが各人から飛び出てくる! これには、相当、感動した。この瞬間、俺は今回の出し物の成功を確信したのであった・・・。
さらにこの日は、長州の入場の際、リングアナウンサー役をお願いしていた上役にも練習に参加していただいた。テイク3までやっていただき、練習は無事に終了。
ますます当日は、勢いに乗れそうである!
格好は長州(小)力。曲はモー娘。そしてダンサー全員、男(おっさん)。ということでダンス・チーム名は「モーニング息子」に決定した。
略して「モー息」と呼んでいただければ幸いである。
5/21に最後に本番さながらの練習を終えたモー息たち。いよいよ本番当日である。
1. 入場直前
エンジンを組んで、緊張をほぐしている犬シーン(ワン・シーン)。
2.入場マイクコール
上役に、しびれるバリトン・ボイスを披露していただき、場内のムードは、最高潮に!
マイク・パフォーマンスのフレーズはこちら。
「時は来た。革命戦士たちの戦いが今、はじまる。
夜明けのとき。 さあ、目覚めよ! そして、そびえるように立ち上がれ。
モーニング息子選手の入場です!」
3.モー息入場
パワーホールが場内に響きわたる。(注:パワーフォールとは長州力選手の入場曲)
不謹慎にも、新郎新婦の入場ゲートから。
若手のタイガーマスクは、通行整理役として。
4.マイク・パフォーマンス(あいさつ、本人呼び入れ)
この企画ではひとつ仕込みをして、音楽が流れる直前に、新郎の後輩Kに対して、「いっしょに踊ろう!」という誘いを入れ、彼は「聞いてない、聞いてない」と言ってしぶしぶ檀上に上がってもらった。そして、ダンスの始まりとともに、急に本人が踊りだすというベタなシナリオを描いていたのだ。
会場は、まさかのどよめき。敵をだますにはまず味方から・・・というわけで花嫁にとってもサプライズな演出であった。「檀上に上がってこい、この野郎!」とメンバーたちが叫ぶと、奥様が新郎の背中を懸命にプッシュしていた姿が印象的であった。
5.ダンス・タイム
後輩Kには、悪いことをした。自分の式で、自分がパフォーマーになるとは思ってもみなかったであろう。あらためて感謝したい。
終了後、メンバー全員が、余興終了後に、「いや~、楽し、楽し!」と連呼してくれていたので、成功だったといえよう。あらためて、この演出に協力していただいたメンバー、上役、さらに、練習生役で協力してくれた2名の後輩に対して、心から感謝を申し上げたい。ありがとうございます!
目を閉じるとあの日の「喝采」が思い出されるわけだが、結婚後もいつでも名曲「喝采」のフレーズにもあるように、「恋の歌」を笑顔で口ずさんでいれるような関係を後輩Kには期待したい。
結婚式から帰宅した私は、だいぶお酒も入っていたようで、自宅のトイレの便器を汚してしまった。その翌日、かみさんに思い切りお叱りを受けてしまう。私は、しばらく「恋の歌」を口ずさめる状況ではないようだ・・・。
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